「いま、この瞬間」をあるがままに

エックハルト・トール『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』(原題 The Power of Now)より

魔法の処方箋 


《苦しみをつくるのをやめる方法》

 わたしたちの苦しみのほとんどは、実は、自分でつくっているものなんです。厳密に言うと、思考がこしらえているということになりますが。言うなれば、わたしたちは、必要のない苦しみを自分から背負っていることになります。これは、「すでにそうであるもの」に対する「拒絶」や、無意識のうちの「抵抗」が原因です。思考は物事に対して「決めつけ」をするものですが、すると、必然的に、ネガティブな感情がわき上がってしまうのです。

 苦しみの度合いは、自分がどれくらい「いま、この瞬間」に、抵抗しているかに比例しています。これは同時に、どれだけ自分が思考とひとつになっているか、という度合いをも示しています。思考は「いま、この瞬間」を嫌っているので、いつもそこから逃げようとしているからです。思考を「ほんとうの自分」とみなすほど、苦しみは増すばかりです。でも、それは見方を変えると、こういうことにもなりませんか?――「いま、この瞬間」をあるがままに受けいれるほど、痛みや苦しみはなくなる、と。

 自分にも、人にも、もう痛みを与えたくないなら、また、自分の中で生きつづけている過去の「痛みのかす」を、もうこれ以上増やしたくないなら、とるべきステップは、ただひとつです。それは、「時間の概念を捨てること」です。せめて普段の生活で、必要以上に時間にとらわれないよう、心がけるだけで、人生が変わってくるはずです。

 では、実際にどうすれば、時間の概念を捨てられるのでしょうか?

 「いま、この瞬間」にフォーカスし、人生の真ん中に据えるのです。

 いつでも「いま、この瞬間」を「Yes!」と言って、抱きしめるのです。「すでにそうであるもの」に抵抗することほど、無益なことがあるでしょうか?いつでも「いま、この瞬間」である「人生」に逆らうこと以上に、非建設的なことがあるでしょうか?「あるがまま」に身をゆだねましょう。人生を「Yes!」と言って、無条件に受けいれましょう。

 「いま、この瞬間」が運んできたものを、まるで自分であらかじめ選択したかのように、すべて受けいれるのです。どんな時でも、「いま、この瞬間」と協力するのです。それが難しい時でも「いま、この瞬間」を敵に回さないことです。


《ペインボディ》

 からだに積もった痛みは、ネガティブエネルギーになって、心とからだにくっついています。これが感情の痛み、わたしが「ペインボディ」と呼ぶものです。

 ペインボディが、フルに目覚めた状態で、人生を歩んでいる人もいれば、親密な人間関係や、過去の悲しい経験(見捨てられる、失う、肉体的・感情的に傷つくなど)と重なる状況でのみ、ペインボディが目覚める人もいます。どんなささいな出来事も、ペインボディを活動させる引き金になり得ますが、過去の痛みと共鳴する場合は、なおさらです。

 気心を知りつくしたつもりでいた人が、突然それまで見せたことのない、悪意に満ちた性格を露呈するのを目の当たりにし、大きなショックを受けたことがありませんか? あなたは、ペインボディが牙をむく瞬間を目撃したのです。しかしながら、人のペインボディを観察するよりも、自分自身のペインボディを観察することのほうが、ずっと大切なことです。ほんのわずかでも、みじめな気持ちがわき上がってきたら、注意しましょう。それがペインボディの目覚めのサインかもしれないからです。「いらだち」「怒り」「落ちこみ」「鬱状態」「誰かを傷つけたいという欲求」「人間関係で『ドラマ』をつくらずにはいられない」などがそのパターンです。ペインボディが目覚めるその瞬間に、しっかりとつかまえましょう。

 ペインボディが存続できる道はただひとつ。わたしたちが、無意識のうちにペインボディとひとつになってしまうことです。

 「エゴが映し出した暗い影」であるペインボディは、あなたの意識という光に照らされることをなによりも恐れています。どうか気づかれませんように、とおびえているのです。その存続は、わたしたちが、ペインボディを「ほんとうの自分」と思いこんでしまうか、どうかにかかっているからです。また、自分の痛みを直視することを、恐がってしまうことも、ペインボディを存在させる原因です。

 ペインボディは、直視することに堪えない危険なものに思えますが、あなたの実存というパワーのまえには、しっぽをまいて退散するしかない、幻でしかありません。精神世界の教義のなかには、「すべての痛みは、究極的には幻である」と、説くものがありますが、これはまさに真理です。さあ、勇気をだしてペインボディを見つめましょう。

 ペインボディをいつも観察していると、ペインボディと思考のつながりを断つことができます。思考とのつながりを断たれてしまったペインボディは、意識へと変わります。痛みが意識の炎を燃やすための燃料に変わり、結果的に意識の炎がいっそう明るくなるのです。これが、一般に知られていない、古代錬金術の解釈です。つまり、卑金属(=苦しみ)を黄金(=意識)に帰る技術のことを意味しているのです。苦しみと意識のあいだを走る亀裂は癒され、わたしたちは満たされます。


《「いまに在る」方法》

 プロセスをおさらいしてみましょう。

 まず、自分の感情的な痛みに、意識を集中させます。それをペインボディだと認識します。「わたしの内面にペインボディがある」という事実を受けいれます。

 ペインボディについて、解釈してはなりません。判断を下したり、分析したり、自分の都合のために「ペインボディは○○が原因だ」などと、決めつけないことです。「いま」に在り、自分の内側を観察しつづけるのです。ペインボディを観察する人になりましょう。


 これが「いまのパワー」につながる方法です。「いまに在る」ことから得られるパワーです。そうしてから、自分にどんな変化が起こるか、ようすを見ましょう。


《拒絶反応》

 わたしがここで説明した、「いまに在る方法」は極めてパワフルであると同時に、とても簡単に実行できます。

 ただし、ペインボディが消えていく時に、拒絶反応が起こる可能性もあります。人生の大半を、ペインボディとひとつになって過ごしてきた人や、ペインボディをアイデンティティのよりどころにしてきた人の場合は、特にそれが言えます。つまり、ペインボディに基づいて、「不幸な自分」というイメージをつくりあげ、このでっち上げの自分を「ほんとうの自分」だと信じこんでしまっている場合です。こういったケースでは、「自分自身を失ってしまうのではないか」、という恐怖心が、拒否反応を引き起こしてしまうのです。

 このケースに当てはまると思う人は、自分の拒絶反応のようすを観察してみてください。過去の痛みに、愛着心がありませんか? 感官を、よーくとぎすませましょう。「不幸な自分」というイメージを抱くことで得られる、独特の満足感に注意するのです。「不幸な自分」について話さずにはいられない、考えずにはいられない、という強迫的な傾向はないでしょうか。あなたがしっかりと意識すれば、その傾向は消えていきます。このようにして「いまに在る」と、ペインボディは溶けてしまいます。

 「すでにそうであるもの」を「Yes!」と言って受けとめて「いま」を生きるうえで、過去の行動や悲惨な出来事は、障害物にはなりません。

  • 最終更新:2014-03-11 09:43:19

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